2020/8/19 【本紹介④】海のふた(よしもとばなな氏)
数年ぶりに再読した本です。
先週半ばまで、冷房の無しのフラットで
36℃近い酷暑が続いていたロンドン。
この夏の海を舞台にした小説で、
心に、少し涼しい風が通った気がしました。
寂れゆくふるさとの街で、かき氷屋さんを始めた主人公まりと、居候のはじめちゃんとのひと夏の物語。
今回1番ジーンときたのは、
このかき氷屋さんに対する、まりちゃんの純粋な想い。
(以下、P.124より引用)
氷は溶けるもので、すぐになくなるから、私はいつもちょっとしたきれいな時間を売っているような気がしていた。一瞬の夢。それはおばあちゃんでもおじいちゃんでも小さい子でもお年頃の人たちでも、みんながうわあとそこに向かって、すぐ消えるしゃぼん玉のようなひとときだった。
その感じがとても好きだったのだ。
自分がいいと思うものを、自分の納得いく世界観の中で作りあげ、喜んでもらうこと。
地味で、果てしなく孤独な努力の積み重ねだけど、その行動一つ一つが、一枚の板のようにしっかり彼女と支えている。
お金は大切だけど、それを求めるのではなく、
自分に嘘をつかない、何より強い姿勢。
(以下、P.139より引用)ものにこだわらないで、今日一日に感謝して寝れば、どこにいても人は人でいられるって。だから、私はどこへ流れてもいいんだ。そこでいいふうにしていくから、そしてどんどん思い出を作り続ける。それで、死ぬ時は、持ちきれない花束みたいなきれいなものを持っていくの。
おばあちゃん譲りのはじめちゃんのこんな考え方も、今の自分の心にするりと寄り添ってくれる気がしました。
版画家・名嘉睦稔さんの挿画も、
本の世界観と合っていてとっても素敵。
(文庫サイズでもこんなに美しいなら、実寸で見たらもっと、迫力あるのだろう。)
この夏に再読できて、本当によかった。
今の自分の心に必要な栄養を貰えた、
そんな本でした。
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