【ESSAY #4】 「時間に追われる国」と「時間に追われない国」 ムーミン女子が気づいたこと

(※以下、出産前の2016年6月ドイツにいた頃に書いたものです。)


 ムーミンが好きだ。
丸いシルエットに癒されるというだけでなく、彼らの発する哲学的な言葉や、全てがハッピーエンドではないシュールな世界観に15年ほど魅了され続けている。
 
ここ数年、日本の20-40代女性間でのムーミンブームは、目を見張る。私の友人(ワーキング女子達)でも、熱烈ムーミンファンを数えてみると、軽く5人以上はいて、ビックリ!
 
一昨年の銀座松屋での、トーベ生誕100周年記念・ムーミン展は、入場まで1時間以上並んだし、世界のムーミングッズの50%が日本市場向けという。
 
昨年夏、フィンランドの聖地・ムーミンランドに行った時も、何と当日入場者(計60人くらい)の約5分の1が日本人観光客
(うち、ムーミン女子一人旅が約半数)で心底驚いた。
 
 みんなが今、ムーミンを求めている…!?
日本の女子達の心を捉えてはなさない「ムーミン」。
その魅力とは一体......!?
 
 答えは、意外な本から見つかった。
ドイツが生んだ著名童話作家:ミヒャエル・エンデ作の「モモ」。
時間どろぼうに盗まれた時間を取り戻しにいく、女の子の物語。
時間に追われる現代社会への警鐘ともとれる、大人も楽しめる童話だ。
ここで描かれる【時間に追われる国】と【時間に追われない国】とが、まさに、【自分】と【ムーミン】の世界なのではないだろうか。
 
 まずは、「ムーミン谷」の世界。
ムーミン、ムーミンパパ、ムーミンママ、スナフキン、ミィ。
個性豊かなキャラクター達が、「ムーミン谷」という【時間に追われない国】で過ごしている。
無駄が多く、無駄が必要。
それぞれが、自分のものさしを持っていて、
感性で物事をみて、生きている。
だから、正解なんて無くても苦にならない。
それを体現する彼らに、私は恐ろしく癒された。
 
 一方、日本の生活は、正反対の【時間に追われる国】。
数字による効率化、「プロセス」より「結果」を求める。
正解が必ずあると信じて、ゴールへの最短距離をひた走る。
企業だけなく、学校でも然り。
【時間に追われる国】で1番になれる人こそが偉く、【時間に追われる国】で1番になるための教育を受けてきた。
効率化が徹底された、究極の資本主義である。
 
 日本のワーキング女子達がムーミンに求めるものは、【時間に追われる国】で疲弊した彼女達の、【時間に追われない国】の憧れ、だったのではないだろうか。
少なくとも、自分についてはそう言い切れる。
 
 なぜなら、1年前にドイツに来て以来、私の生活(=子無/専業主婦)は、100%【時間に追われない国】のものとなったからだ。
伴い、ここ1年私のムーミン熱が驚くほど落ち着いてきた。
 
日本では、毎日ムーミングッズはマスト!であったのに、今ではそんな恋愛のようなトキメキが湧いてこなくなった。
それはそれで、大好きだけど、という、
静かで落ち着いた家族愛みたいなものに変わってきたのだ。
 
 なるほど、自分は【時間に追われる国】で
随分無理していたのだな。
だから、もう癒しのムーミンを極度に求める必要がなくなったのだな。
 
勿論、【時間に追われる国】がダメだとは思わない。ここまで日本が発展し、経済大国になったのも【時間に追われる国】のルールに乗っ取って来たから。
【時間に追われる国】さま、さま、だ。
このルールが、ゲームのように大好きで得意とする人達も沢山いる。私は、彼らを心底尊敬する。でも、正直自分はここでは長くはやっていけない、と思う。
 
日本では、
ある時を境に【時間に追われない国】が、
まさに童話「モモ」の如く、【時間に追われる国】のルールに支配されるようになってきたのではないか。
 
 例えば、「教育・介護・子育て・地方活性」。今、世界の課題先進国と言われる日本での大きなテーマだ。世界が、日本の解決策に注目している。
 
昔から【時間に追われない国】とのルールに
則ってきたそれらが、突然”ビジネス”という波の中、効率化やゴールを求める【時間に追われる国】の方程式で紐解かれるようになってきた。
利潤追求・効率化を第一とする資本主義の企業経営。こんな【時間に追われない国】の鉄板ルールで、これらの課題を解決しようとすると、当然無理が生じる。
 
効率化を求めすぎて、ギスギスし自殺者が出た老人ホーム、一義的な物差しで図られ過ぎる日本の教育。
美味しいものを、心を思い込めて出すことの
対局にあるファーストフード。
 
つまり、今、【時間に追われる国】の中で慣れ親しみ、そのルールのみを教え込まれてきた私達は、知らずのうちの2つの世界を、混ぜて考えてしまっているのではないか。
 
会社員時代も思い当たる節がある。
年次と共に担当クライアント数を増え、
1案件・1クライアントに対して、自分が思ったように時間をもって対応できない、という不満があった。
 
そこで、よく言われたのが、
「クライアントを案件を、うまくさばくんだよ」。
マルチタスクに、さばけて、まわせる人こそが、仕事ができる、優秀な人なのだと。
 
まさに【時間に追われる国】の象徴的な言葉である。
しかし、本当にそうだろうか。
顧客側からすると、営業カウンターは自分1人。
自分が、いくつクライアントを抱えてようが、関係ない。
逆の立場にたったら、すぐわかる。
いつでも、顧客にとっては、熱をもって誠実に対応してもらえるのが一番なのだ。
 
 対局の2つの世界では、優劣などつけられないし、つけるべきではない。
ただ、【時間に追われる国】に浸かりすぎて、このルールが全て、と思いがちな私達は、今こそ、立ち止まって考える時かもしれない。
 
 2つの世界があり、2つのルールがあることを。自分は今、この瞬間はどちらのルールに従うべきかを。
 
▼2015.7 Finland Moomin Worldにて。
▼【ESSAY #1】「社会とつながる」ということ
▼【ESSAY #2】”自分の言葉で語る” ということ
▼【ESSAY #3】「コミュニケーション」の本質とは?

0コメント

  • 1000 / 1000